70年代一世を風靡したパピアンスも実はボブ・リーブスが作っていた!? 89才で現役バリバリのボブ・リーブスのインタビューです。

ジャズやコマーシャルのトランぺッターなら誰でも1度は使ってみたいと思うマウスピースの1つ、ボブ・リーブス。彼の工房はロサンゼルスのダウンタウンから北の1時間ほどのバレンシアという町にあります。最初に訪問した時は、受付のスタッフが電話中だったため奥から目のキラキラした痩せた初老のスタッフが迎えてくれて「私はあまりに多くのトランペットの音を聞きすぎて耳遠くなったから大きな声で話してくれ」と言われたのですが、彼こそがボブ・リーブスご本人でした。

入口を入ってすぐ左に小さな応接室兼試奏ルームがあって、そこでインタビューをしたのですが、ビデオカメラのマイクの不具合で全て声が録音されてなくて、ボブさんに平謝りしてもう1度初めからインタビューをお願いするハメになってしまいました。「私は同じ話は2度としないよ!」と念をおされて、ランチに行こうという事になり再インタビューは寿司を食べながらとなりました。

 

Q: 以前に私もボブ・リーブスのマウスピースを使っていました。リムがすごくフィットして気に入っていたのですが、なによりその形が好きでした。数あるマウスピースのなかで一番美しい形だと思います。

A: とにかくユニークで遠くから見ても一目でBob Reevesだと判る形にするために、何日もかけて1インチの真鍮の部品からのプロトタイプをいくつも作ったんです。気に入ったカーブを実現するためのツールまで作りました。私は海軍のエンジニアリングの学校に8年間通って金属加工を習得したんです。だから金属加工だけに関して言えば、たぶんその当時の楽器を製造する職人さんの誰よりも私の方が腕は良かったと思います。今ではCADでどんな複雑な加工もコンピューターでできてしまいますが、私の手はまだまだCADには負けませんよ。

Q: マウスピースを作り始めたきっかけは何だったのですか?

A: 海軍の学校に行きながら、私はトランペッターになりたかったんです。20 世紀センチュリー・フォックス・スタジオのリード奏者だった、ジョン・クレイマンにレッスンを受け始めました。ある時、彼は私に何の仕事をしているのかと聞きました。マシンショップで仕事をしていると答えると彼は私にマウスピースやらリードパイプやらいろんな物を作らせたんです。

そしてある時、レッスン代を払おうとすると彼が「旋盤はいくらするんだい?」と言いました。私が「$1,900です」と言うと彼はその場で$1,900の小切手を書いてくれて「旋盤を買って来なさい」と言いました。私は大変驚きましたが、彼の意図する事はすぐに理解できました。私の自宅にその旋盤を置いたのです。彼はスタジオの仕事が終わって、生徒へのレッスンをし夕食の後、20マイル離れた私の自宅に毎日のように訪れるようになりました。そこで真夜中までいろんなマウスピースを試したり、改造したりしました。毎日がすごく楽しかった。

私はその後、肝臓の手術を受けて呼吸の度に激痛が走るようになってトランペットは断念せざるを得なかったんですが、彼はまさに私の進むべき道を示唆してくれていたのです。ちなみに今まで私が会った何千人ものトランぺッターの中で彼は間違いなくNO.1です。譜面を練習しているところを見たことがありませんし、いつも初見で完璧に演奏できました。もちろん絶対音感があったと思いますし、リズム感覚も完璧でした。バックの1-1/2C 25スロートのを使ってましたがバックのC管でCアルペジオをダブルハイC までまるでピアノを弾くように楽々と演奏してました。

ある時ジョンから「キャロル・パピアンスがヘルプが必要と言っているから行ってみなさい」と言われ早速行ってみたところ「ヘルプは要らないから帰れ」と言われました。翌日電話があって今度は「すぐ来てくれ」と言われました。メッキの事も何も知らなかったんですが、彼の頼み事は全てすぐにできるようなって、結局ほとんどのパピアンスのマウスピースは私が造るようになって、彼が亡くなる1969年まで造り続けました。 ジョンは、エルディン・ベンジも紹介してくれて彼の工房を手伝う事になったのですが、1週間後に自動車事故で彼は亡くなってしまいました。2、3年後に彼の息子さんのドナルドが経営する工房で仕事をすることになったのですが、本当に多くの事を学びました。

Q: 40年以上前の事ですが私の大学のビッグバンドのトランペット全員がパピアンスのマウスピースを使ってました。私のもあなたが作ったものかもしれませんね? (筆者注)日本ではパピアンスと言いますが、パーバイアンスと言うのが正しい発音です。

A: もし、Purvianceの前にC.M.という刻印があれば私が彼の工房で作ったやつですよ。当時でも良いマウスピースはたくさんありましたが、パピアンスのようにラインナップをシステム的に揃えたマウスピースは無かったのでとにかく大人気でした。キャロル・パピアンス氏は巨匠と言っていいほどのコルネット奏者で絶対音感があって、聴いた曲はすぐに演奏できたんですが譜面が読めなかったので、ロサンゼルスでコマーシャルの仕事はあまりなかったんです。彼は偉大はミュージシャンでした。彼の意図した音は彼のマウスピースで再現されていると思いますし、他の工房で誰よりも優れたアドバイスを得たトランぺッターは数多いはずです。彼が亡くなってから、私は彼の工具を譲り受けて彼のイニシャルのC.M.という文字を取りました。今でもパピアンス氏に敬意を表してこのブランドのマウスピースを造り続けています。

Q: いままで多くのトランぺッターにマウスピースを作って来たと思うのですが、エピソードなどがあれば聞かせて下さい。

A: ドク・セベリンセンがロンドンでのレコーディングのためにマウスピースを造ってくれと言ってきました。彼が求めている事をすぐに感じる事ができてクラッシック用とコマーシャル用の2つのマウスピースを造ったのですが、実際にレコーディングで使ってくれました。ロンドン・セッションというレコードの片面はクラッシック用、裏面はコマーシャル用で演奏しています。今でも覚えていますが彼が最初にコマーシャル用のを吹いた時、”This is a real Zigger”と言ったので、Ziggerという刻印を打ちました。彼は今でも(いざ、という時のために・・)Ziggerをいつもポケットに入れているはずです。

またある時ダンテ・ジャズクラブのブルー・ミッチェルのライブに行って、バーで彼と話をしました。「私はマウスピースを造ってるんです」と言うと「マウスピースは要らない!」と言って、次に会ったときも会うなり同じことを何度も言われました。しばらくして彼は私のショップにやって来たんです。とにかくマーチン・コミッティーの調子が悪いというのでバルブ・アライメントをすると翌日またやって来てマウスピースを造ってくれと言いました。彼の求めている事がわかったので、造って渡すと翌日フリューゲルホルンを持って来てマウスピースを作ってくれと言いました。出来上がったマウスピースはその後のアルバムで使ってくれました。彼はそのアルバムが大変気に入ったらしく、ショップにわざわざ持って来てサインしてくれました。

Q: テクニカルな質問なのですが、若いプレイヤーがマウスピースをボブ・ブリーブスにアップグレードしたいと言ってきたらどうアドバイスしますか?

A:まずマウスピースとサウンドの関係の話の前提としてバルブ・アラインメントの方がもっと大切です。楽器は10本あれば全て違うので、気に入って買った楽器でも数か月位経つとピストンの位置がずれて来て何かおかしい、じゃあマウスピースを替えようとなるからです。バルブ・アラインメントが全てのベースなのです。当時、私のショップはハリウッドにあったんですが、毎日のようにミュージシャンが訪れました。なにしろ当時のハリウッドは音楽産業のメッカとも言えるところでレコーディングが連日頻繁に行われていましたが、音楽が日に日に進化してトランぺッターが求めるレンジやテクニックに楽器が追い付いてませんでした。私はバルブのアラインメントの重要性に気が付いて、その調整を始めたところ世界中から有名なトランぺッターがショップに相談に訪れるようになりました。ですから、まず良い楽器を手に入れたら、マウスピースに悩む前にバルプ・アラインメントをする事を勧めます。そしてもしボブ・リーブスのマウスピースを試したかったら、42/Mなんかが適当でしょう。ですがまず楽器の基礎的な調整をまずした方がいいです、、もちろん猛練習があっての事ですが。

Q: さらにテクニカルな質問なのですが、リム、カップ、スロート、バックボアと様々のサイズ、形がありますが其々がどのようにサウンドに影響するのですか?

A: 其々全てが影響しますよ。その事について本が書けるくらいです。ただ形、サイズを決める前にどんなリムがフィットするのかを決めてないといけません。それが決まったら後は簡単です。まずその人の音を聞きます。次にどんな音楽をやりたいのか、リードなのかジャズのソロイストなのかオーケストラ或いはブラスアンサンブルなのか、その人の話をじっくり聞きます。私は何千人ものトランぺッターの音を知っているので、音を聞けば何を求めているのか、どんなカップやバックボアが必要なのかはだいたいわかります。大切な事は、アドバイスをする前に、その人の音と話の両方を良く聴くことに尽きます。

Q: 愚門ですが、もしチェット・ベイカーがショップに来て「ずっとこのマウスピース使ってるんだが、もっと良いのを造ってくれ」と言われたら?

A: ウーン、面白い質問ですね。 彼のようなアーティストは、他のアーティストも同じだと思いますが、自分の音楽を良く知っていて、より表現しやすい、歌いやすいという事を求めるのだろうと思います。人それぞれ指紋が違うように、彼は歴然とチェットとわかるサウンドをもってますし、それをマウスピースで変える事はできません。彼はリードのようなレンジも、複雑なフレーズも必要としてません。ジャズのソロイストにとって大切なのは、どれだけ楽器を通じて歌心を表現できるかなので、明るいエッジのある音は必要ないでしょう。ですからお手伝いができたとすれば、彼の伝えたいメッセージが楽器を通じて、より豊かで、エモーショナルに表現できるようなマウスピースを模索するという事でしょうか。

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後で教えてくれたんですが、ボブ・リーブスさんはなんと89才だそうです。目がキラキラと輝いて、顔の皺もほとんど無くとてもそんなお歳には見えませんでした。ご存じのように毎年9月に来日してJoy Brassさんでバルブ・アラインメントをしてくれていますが、89才で現役というのは驚きです。お若い秘訣を聞くと、ドクターに薦められても薬はほとんど飲まない、ホームメイドのパスタソースを年に2回作って食べる、瓶詰なんかの加工食品は食べない、生のニンニクを毎日食べる、DocのGolden Ruleのように毎日欠かさず仕事をするなどでした。いろんなトランぺッターの知られざるストーリーなど話が尽きませんでしたが愚門にも真剣に答えてくれて、気さくでユーモアのある、とても魅力的な方でした。また是非インタビューでもっとお話しを伺いたいと思いました。

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