クリス・ボッティのインタビュー by マイケル・デイビス Vol. 1からの続きです。
ポール・サイモンの仕事でマイケル・ブレッカーとステージを共にした際のエピソードについてです。
偉大なサックスプレーヤーはこの世にはいないんですが、ジョン・コルトレーンと並ぶような数少ない素晴らしいプレーヤーの1人と仕事ができたのは奇遇でした。誰もが彼の紳士的でそして優しくて謙虚なところは忘れないでしょう。彼はポールの友人でもあったのでこの仕事を引き受けたんですが、有名なソロイストなのに隣でプレイしていてもそんな事は一切感じさせない人でした。とにかく彼がソロを取ると、バンドの皆が納得!といった感じでした。
1999年のスティングとの出会いについては、まさに運命的な出会いだったと語っています。
彼とのフレンドシップは私の成功以上に私が誇りにしている事で、家族の一員といっていいほどの友人です。彼の事はあまり知らなかったんですが、ロンドンのバーで初めてスティングに会って話をした際、彼はこう言ったんです。「あなたは2,3枚のソロアルバムを出してファンもいる。だけど2~3年はソロ活動を休んで私のバンドでやってみたらどうだ?ジャズが好きなファンはいないが、あんたのファンにして見せる。もしこのリスクを取るなら俺も努力する」彼の言っている事は不思議と自然に理解できましたし、彼との縁も感じました。契約があったヴァーブにこの話をしたところ、あっさりと契約を切られてしまいました。しかしそれからは彼が最初に言った通りになったんです。オプラ・ウィンフリーから番組に出て欲しい言われて、それは3日後だったのですがスティングは直ぐ行きなさい、と言ってくれました。スティングを信じてリスクを取った事が全ての始まりでした。
コロンビアレコードで数々のヒットがありますが、プロデューサーのボビー・コロンビーの事についても興味深いエピソードを語っています。
ボビーはブラッド・スェット・アンド・ティアーズのドラマーですが、彼とは友人でした。ヴァーブとの契約を切られて私は絶望して、万事休す、私のキャリアは終わりだと思いました。ボビーに電話をしたところ「日記帳があるか?」と聞かれました。一体何を言ってるんだと思いましたが彼はさらに「直ぐに日記帳を買って今日の所に丸印をつけろ、人生で最高の日になるから」と言いました。そして彼を通じてコロンビアレコードと契約する事になったんです。2、3枚のアルバムを作ってから社長のドン・アイナーとボビーとのミーティングで「とにかく自由に好きにやってくれ、ロマンチックなのを」と言って莫大な予算をもらったんです。こうして、When I fall in Loveが誕生し、オプラ・ウィンフリーも気に入ってくれ、ヒットしました。
あなたのライブが好きという人とライブよりレコードが好きという2種類のファンがいることについて次のように説明しています。
ジョシュア・ベル、素晴らしいバイオリニストですが、又はラン・ランの演奏をカーネギーホールでライブで聴いて拍手喝采をしたとしましょう。公演を楽しんだ夫婦がウェストチェスターの自宅に帰る車の中で余韻に浸りながら何を聴くかと言えば、多分彼らのアルバムではなくて、もっとスローでロマンチックなショパンのノクターンなどでしょう。同じことがマイルス・デイビスのアルバムにも言えます。ジャズファンはプラッグドニッケルやソーサラーなんかが好きですが、一般の人はマイルスについて何を知っているかと言えば、たった2枚のアルバムです。カインドオブブルーとスケッチズオブスペインです。それらは全然ジャズっぽくないですし最先端の音楽でもありませんしライブで聴くような興奮もありませんが、コンセプトがあるんです。カインドオブブルーはムーディーで繊細で美しく、クールでかっこ良い、スケッチズオブスペインもホアキン・ロドリゴのアランフェス協奏曲をマイルスのコンセプトで音楽にしたものなんです。だからライブステージでは自分の全てを出す事が必要ですが、それはレコードを作る事はまったく異なるんです。
将来に音楽を目指したい若者へは、次のようなアドバイスをしています。
決心する事です。才能よりも、とにかく決心すること、これをやりたい!とまずは決める事でしょうね。「どんな音楽が好きですか?」と聞いたとき「いろんが音楽が好きです」と応える若者は相手にしません。レッドツェッペリンでもウィントン・マーサリスでコルトレーンでも絶対的にそして情熱的に好きになって、自分の全てをそれに捧げるべきです。私の場合はマイルス・デイビスでした。パッションがあれば年を取るにつれてそのパッションを人生の中でどう形にしたら良いかが自然にわかってくるものです。
クリス・ボッティは彗星のごとく、ある日突然現れてスターになったような印象だったのですが、このインタビューからそれは全く違っていた事がわかりました。12才の時に聴いたマイルス・デイビスのマイファニーバレンタインが人生を決めたという点で、もの凄い感性をもった少年であったのだと思います。インタビューアーのマイケル・デイビスが「あなたが居るだけで皆がインスパイア―された」と言っていましたが、それは彼が誰よりも自分のやろうとする音楽のイメージを明確に描けていたから、またそれに向けて努力をしたからなのでしょう。
クリス・ボッティは楽器との出会いも奇遇だったと語っていますが、マーティン・コミッティーのラージボアのハンドクラフトモデルを使い続けています。同じモデルのトランペットをケビン・ディーンが演奏していますのでご覧下さい。