誰でも始めはトランペットに付いて来たマウスピースを使いますが、だんだん上手くなってくると周りの上手な人が使っているマウスピースが気になってそれが欲しくなったり、又は先生に薦められて新しいマウスピースを買ったりして結局は何本も買い込んでしまうハメになりますよね。マイルス・デイビスのように生涯、1本のマウスピースしか使わなかったというのは、よほど楽器に無頓着か又は天才かのどちらかでしょう。
ちなみにマイルスはホルトンのHeim2というマウスピースを使っていましたが、これは1900年代の初めニューヨークフィル、ボストンフィルなどの主席トランペットだったGustav Heimという人がデザインしたもので、その後セントルイスシンフォニーの首席トランペットのJoseph Gustatが生徒に使うように推薦していました。何故これをマイルスが使うようになったかですが、彼が高校時代にJoseph Gustatにレッスンを受けたという事実もありますが、それよりも歯科医だった父親の患者さんにEdwood C. Buchananというトランぺッターが居たのですが、父親が彼に息子のレッスンを依頼した事によるのです。何故ならマイルスは13才になったばかりで、Edwoodの学校に入るには若すぎたので父親はプライベートレッスンを依頼したのでした。
Edwood C. BuchananはJoseph Gustatの弟子のような人で、もちろんマイルスにHeim2 を使わせたのですが、それよりもマイルスが後に語っているように、彼のメンター、少年マイルスの音楽性に多大な影響を与えたまさに師匠だったのです。当時はサッチモが大スターでしたが、Edwoodは全く演奏スタイルの違うボビー・ハケットを手本とするように、ビブラートはかけるなといった事を教えました。「どの道、お前が年寄りになったら音が震えるんだから、今はヴィブラートはかけるな!」と教えたのだそうです。マイルスはEdwood師匠の教えを生涯忠実守ったと言えるでしょう。
このHeim2のマウスピースは手に入るんですか? オリジナルのHeim2はどこを探してまず見つからないと思いますが、実はKanstulが復元モデルを造っているのです。 “Gustav2モデル”がそれでリム径は16mm、スロートサイズは#27、ダークなサウンドかつ容易な吹奏感との事。マイルスのファンなら是非1本は揃えたいところです。マイルスの信奉者のWallace Roneyはもちろんこれを使ってますし、かれのメンターでもあるクラーク・テリーにもプレゼントしています。
では、他のトランぺッターはどんなマウスピースを使っているのでしょうか?もちろん現在は違うのを使ってるかもしれませんが、次がそのリストです。
チェット・ベイカー - バック6B(50年代) バックBC(70年代)
ハープ・アルバート - バック7B、マーシンキウィッツカスタム バック8B(ボブリーブス・シャフト)
クリス・ボッティ - バック3C(1920年代物) バック3(1926年物)
ランディ―・ブレッカー -バックメガトーン 2 1/2 C
クリフォード・ブラウン -バック17C(現在のバック 10 3/4Cに匹敵する)
ケニー・ドーハム -バック1、ジャルディネリ 6V
アート・ファーマー -モネットB7F(アートファーマーモデル)
ディジー・ガレスピー -アルキャス2-24A
ロイ・ハーグローブ -バック3C、モネットB6
マイク・バックス -シルキー13A4A
フレディー・ハバード -バック6、モネット4B
ライアン・キソール -ヤマハ16c4、 バック 1- 1/2C
ウィントン・マーサリス -バック 1-1/4 C、モネット
ジム・モリソン -ヤマハ14B4A、
アルトゥーロ・サンドバル -バック3C、マウントバーノンバック3C、マウントバーノンバック 1-1/4 C
ルー・ソロフ -バック3C
やはりバックが多い、特にヴィンテージのマウントバーノンバックを後生大事に使っている人が多いようです。技術やツールの精度が飛躍的に向上した今の方が絶対に精度の高い、良品質のマウスピースができると思うんですが、やはり職人の魂が入ったマウスピースはどこかが違うのでしょうか。機会がもしもあれば是非、彼らに直接インタビューしてみたいものです。
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