ヴィンテージトランペットのレストアでは右に出る職人は居ない。ロブ・スチュワートさんにインタビューしました。

ロブ・スチュアートさんはロサンゼルスのダウンタウンから北東に車で40分くらいのところにあるアーカディアのショップを構えて主にトランペットの修理、ヴィンテージ楽器の復元修理を専門としています。西海岸では管楽器の修理にかけてはまさにトップクラスで、知らないトランぺッターは居ないほど。初対面だととっつきにくい感じで、職人気質の塊のような方といった印象を受けますが、顔見知りになると、計算した通りにテキパキ手を動かして修理をしながらの楽しいトランペット談義となります。

前回お会いした際に、「子供も手がかからなくなったし、また最近は手が思うように動かなくなったんでそろそろ自宅のガレージにショップを移して、好きなレストレーションだけやろうかと考えている」とおっしゃっていたので、いつかインタビューをさせて下さいとお願いして今回のインタビューとなった次第です。動画でも撮ったので、いつかロブさんの許可を得て、翻訳してみたいと思います。

ロブ・スチュワートさんの工房にて

Q: 楽器の修理を始めたきっかけは何だったんですか?

A: 実はプロのトランぺッターになりたかったんですが、あまり上手ではなかったので、高校で楽器の修理のクラスがあって、それを受講したのがきっかです。トロンボーンのベルを実際に修理したりしました。卒業後ヒーストン先生からバートールドミュージックというお店を紹介してもらって、そこで修理の仕事を始めたんですが2年で倒産してしまったので、ノース・ハリウッドの大きなガレージ付の家を借りて楽器修理の店を始めました。

Q: 当時の憧れのトランぺッターは誰だったんですか?

A: Doc Severinsenでした。実際に聞いた事は無かったんですが。80年代に楽器の修理を頼まれました。ゲッツェンのドク・セベリンセンモデルでマウスピースが確かシルキーを使ってました。彼はいろんな楽器を使ってましたが、いつもニューヨークバックを原点というか音の基準にしていたようです。彼は当時マウスパイプに凝っていて、毎回もショップに来て違ったマウスパイプを取り付けて試していました。コルネットも演奏していましたが、シルキーのマウスピースを何本も持って試行錯誤していたと思います。

インタビューの間バルブの組み立てををやってらっしゃいました。

A: いろんな観点から楽器の評価があると思うんですが、ロスさんがベストと思うトランペットは何ですか?

Q: クラフトマンシップという観点から言うと、なんと言っても30~40年代に作られたオールズのコルネットやトランペットです。それぞれのパーツが丁寧に作られていて、注意深く組み立てられてますしバルブも精度が高いです。なかなか手に入りませんが。もちろん30~50年代のバックもたくさん修理しましたがオールズの方がクラフトマンシップと品質は高かったです。

60~70年代のシルキーも同様に当時のベストな品質だっと言えるでしょう。バラバラにしてみると判りますが当時のバックより品質は高かったと思います。今のシルキーもその伝統を100%受け継いでいますが、1つだけ違うところがあります。70年代の後半にフィンガーフックとベルをサポートするブレイスの材質が鋳物から真鍮に変わった事です。比べると少し形も変わっているのがわかります。

80年代以降はヤマハの品質管理はベストだと思います。スチューデントモデルでもバルブの精度はピカ一です。最近読んだ修理のマニュアルで、あまりにも精度が高いと問題が起こるとの事で、ある時点から意図的に少し緩くしたんだそうです。これには驚きました。

店頭には博物館級のヴィンテージモデルが展示されている。

Q: 店頭にメトロポリタン美術館の楽器コレクションにも負けないようなヴィンテージの楽器が並んでいますが、これからレストア―してみたい理想の楽器がありますか?

A: 19世紀の中頃の楽器は修復していて面白いです。当時は工具も製法も確立してなかった時代ですから、当時の職人が、どんな技術で、どのような工具を使ってどうやってこんなに高品質な楽器造ったんだろうと想像しながら仕事ができますから。当時のロータリーバルブは全て真鍮かブロンズ製なんですが、いろんな試行錯誤がなされていて驚かされます。

また、とにかく過去に修理した形跡の無い楽器に遭遇した時は嬉しいですね。9割以上は酷い修理がなされていて、それらを修復するのは本当に大変でストレスなので。毎日がその格闘と言ってもいいくらいです。例えばベルの凹み修理で地金をたたいて伸びてしまっているのはどうしようもないんです。金属は完全に元通りには縮みませんからね。

Q: ヴィンテージ楽器を購入するさいに注意する点は何ですか?

A: ヴィンテージのコルネットにしても、バルブの精度が緩いですからまずそれをチェックした方がいいでしょう。ただ、ピストンをリビルドして完璧にする事ができます。インディアナ州エルクハートのアンダーソンメタル社のデイブ・シークレストさんがその専門家なんですが、最近リタイア―してしまったのでこれからはコストが上がってしまうでしょう。

ヴィンテージ楽器は全てロブさんがレストアしたもの

Q: ベルの材質に、イエローブラス、レッドブラス、コッパ―、ベリリウムといろんな選択がありますが、どれを選んだらいいですか?

A: 一番見栄えのするきれいなのを選べばいいですよ。だって演奏していて楽しいでしょう。

Q: という事は、どれも音には大して影響がないという事ですか?

A: そう思っています。あるとしてもそれは微細な事で、それ以外の要素(ベルの形状の微妙な違いなど)の影響の方がはるかに大きいと思うからです。それに今まで納得できる科学的な検証もなされてないと思います。ドイツで目隠しドテストをやったという話を聞きますが、主観的な結果だったと思います。なんと言っても見栄えのよい綺麗な楽器で演奏できるという心理的なポジティブな感覚の方がトーンに影響するのではないでしょうか?

バックがかつてスターリング・シルバーのトランペットの製造を試みた事がありました。5,6台のプロトタイプを作って、ハリウッドのスタジオプレイヤーに配ったんです。チャーリー・デイビス(Charlie Davis)、ジェリー・ヘイ(Jerry Hey)、ゲイリー・グラント(Gary Grant)などです。チャーリーはまだ所有しているはずです。なんどか修理を頼まれた事がありましたから。余談ですがジェリーからは1度3番管を短くしてくれと言われたので良く覚えています。どんな意味があったのかわかりませんが。

彼らからの評価は上々でバックは製造を開始したんですがスターリングシルバーは真鍮より硬くで柔軟性が無いため手間がかかり、従来の真鍮をまるめて継ぎ合わせてたたき出すという方法では一定の品質を保つの事ができないため、ステンレスベースのベルをエレクトロフォームという手法(シルキーのコッパ―ベル、コーンのカプリオンベルなんかがこの手法で作られてます)でメッキを施すというものに変更しました。スターリングシルバーベルとは言えないので、スターリングシルバープラスと呼んで販売しています。これが材質とトーンの関係を象徴していると思います。あとローブラス、ラッカー、シルバー、ゴールドの違いも良く聞かれますが、ローブラスは明るい音になる、ある人はダークになると言った具合で評価は人其々のようです。

ロブさんは趣味でクラッシック化―のレストアもしている

Q: 良く中古の楽器で、下手な人が吹いた楽器はその癖が楽器についてしまって音程が狂ってしまうという話を良く聞くんですが本当ですか?

A: 私も聞いた事がありますが笑ってしまいました。壁に向かってありったけのデカイ音で数時間吹けば、楽器の癖が直るというもっともらしい話も聞いた事がありますが、アンブッシュアを鍛える事はあっても、そんな事で金属の分子構造が変化して音が多少なりとも変わるなんてのはあり得ないですね。しかし面白い事を皆さん考えつきます。

Q:まだまだ聞きたい事はたくさんあるんですが、あまりお仕事の邪魔をしてはいけないので、また次回お時間をいただけたら幸いです。ありがとうございました。

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ロブさんは西海岸のトランペット・プライヤーなら知らない人は居ないほど腕の良い職人さんです。「トランペットはあまりうまくなかったので・・」と謙遜してらっしゃいますが、80年代のテレビの番組の中で南北戦争時代のトランペット(バルブの無いもの)を演奏しているのがYoutubeにありましたが、なかなかの腕前でした。話をしていてもトランペット、特にヴィンテージものが好きなのが本当によくわかります。次回は日本から私のケノンのモノポールのフリューゲルホルンを持って行って修理をしてもらおうと思います。少しベルがへこんでるだけなんですが、ロブさんと話したいというのが本音なのです。

 


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